「エンジニアのインサイト、全くわからん」からのスタート。私大文系出身者がハッカソンのPMをやってみた

記事の目的

こんにちは!ファストドクター株式会社のDX推進担当、小出です。2023年7月1日から2日にかけて、ファストドクターはQiita株式会社と共同で”Qiita × Fast DOCTOR Health Tech Hackathon”を開催いたしました。今回は特にエンジニアリングのバックグラウンドを持たない私大文系星人が、どのようにしてハッカソンイベントのPMを担ったのか、そしてその結果はどのようなものだったのか?をここに記述し、微力ながら、今後の日本におけるハッカソンカルチャーの礎に少しでも貢献できればと思っております・・・。

Health Tech Hackathonとは?

日本の医療はこれから「超高齢社会」という需要増と「医師の働き方改革に伴う残業時間の制限」という供給減の二重苦に向き合わなければなりません。では、この医療リソースの不足に我々はどのように向き合えばよいのでしょうか?

ファストドクターは、医療者とエンジニアのマッチングにその解決の糸口があるのではないかと考えています。

ファストドクターは2030年に実現を目指す「ビジョン2030」として、「1億人のかかりつけ機能を担う」を掲げています。現在200名程度の社員が4,000名以上の医療従事者の皆様にご協力をいただきながら、患者様に医療プラットフォームを提供してきました。

小出のような非医療サイドからジョインした人間が最初に感じることは「病棟やクリニックをはじめとする医療現場では実際に何が起きているのか?」を実のところ知る機会がない、ということです。

一方で、慢性的な人手不足に苦しむ医療現場においては、医療技術を磨き込む時間を確保することに精一杯の状態のことが多く、世間一般でどのような技術が実際のオペレーションに変革を起こしているのかを観察し、自業務に応用し実用化させるような”余裕”が少ないとの声が聞かれます。

医療者が技術で実現できることを知り、エンジニアが医療でできることを知る。このマッチングの場が安定的に供給されることで、医療DXを加速させることができるのではないか、というのがHealth Tech Hackathonの主たるコンセプトです。

特に昨今進歩の目覚ましい生成AIは、大量の事務作業を抱える医療現場の負担を決定的に変えるインパクトを秘めているのではないかと考え、記念すべき第1回目のテーマは「ChatGPTで医療の未来を切り拓こう」となったのです。

私がハッカソンのPMに!?

さて、実のところファストドクターに技術部門ができたのは2021年12月。ハッカソン運営のノウハウなどあるはずがありません。ここについてはQiitaさんに力強くサポートをいただき、大きな枠組みを作る初期構想の段階はおんぶに抱っこに存分に寄りかからせていただきました・・・!(ありがとうございます!)

言わずと知れた日本最大級のエンジニアコミュニティを運営するQiitaさんの豊富な経験に基づいたさすがの進行により、ハッカソンの準備は順調に進み、そのまま当日を迎えるかのように誰もが思っていました。

しかし現実はそう、甘くありません。ある日のファストドクターの経営陣会議において、Health Tech Hackathonであるのだから、実際に現場で働いている医師を当日参加者に加えて、運営すべし!という決定がなされたのです!

Qiitaさんからすればまさに青天のへきれき。さすがに医療従事者とのパイプを持たないQiitaさんに医師への当日の参加依頼をお任せするわけにもいかず、Health Tech Hackathon当日どのようにして生の医療のエッセンスを持ち込むのか!?については、ファストドクターが自分たちで考えることとなったのです。

そしてCTOの宮田が白羽の矢を立てたのが、そう私、小出でありました。

さて遅くなりましたが少し自己紹介です。小出自身はファストドクターの技術開発を担うFast Doctor Technologiesに所属していますが、エンジニアではありません。私立文系の大学を卒業後、コンサルティング会社で働き、プロジェクト管理や要件定義、業務設計を中心にキャリアを歩んできた人間です。

今回上司である宮田CTOからハッカソンの進行管理の役割を拝命した時、職業的なアイデンティティがエンジニアではない私にとって、エンジニアの皆様の知的好奇心を満たすことができて、楽しめるハッカソンイベントにするためには果たしてどのような準備が必要なのか?が一番のチャレンジとなりました。

まず手始めに、Fast Doctor Technologiesの敏腕エンジニア数名にこれまで参加したハッカソンで楽しめたものはどういうものか?をヒアリングしました。

  • 「平等な条件で参加できること」
  • 「ある程度の自由度があるテーマであること」

なるほど、まったくわからん(笑)。自由度のあるテーマとは具体的にどのようなものなのか・・・。平等とは果たして何を示すのか・・・。考えれば考えるほど哲学的な問いのように思え、思考回路はショート寸前状態。

完全に手詰まりの状態に陥ったために、自分でもう少し大規模言語モデルについて理解を深めれば何かしらのインサイトを得られるか?と考え、YouTubeで松尾豊教授やヒロユキ氏が自然言語処理や生成AIについて語る動画を2倍速で見て、徹夜でインプットし続けるという荒業を試みました。

時刻は深夜3時、「なんだろう。付け焼き刃の知識だけでインサイトを得ようとするのやめてもらっていいですか?」という内なるヒロユキの声がどこからか聞こえてきた気がしました。

どういうハッカソンにしたくなかったのか?

困った小出は一旦、逆のアプローチを取ることにしてみました。つまり、参加者が楽しめない、結果としてつまらないハッカソンとはどのようなものなのかを考えてみたのです。

自分の人生の中であまり楽しくなかったイベントやワークショップとはどのようなものだったのだろうか・・・。そう思い返すと前職でのひとつのワークショップのイベントが思い当たりました。

コンサルタントとして勤務してから数年が経った頃、それまでコンサルティング業界の主流であったロジカルシンキングによる課題解決のアプローチに加えて、デザインシンキングと呼ばれる右脳型の課題解決アプローチが突如として流行したことがありました。

デザインシンキングの問題解決を学ぶ社内トレーニングの中で小出は一度、ハッカソンにおけるアイデアソン(課題解決のためのアイディエーション)に相当するような取り組みに参加したことがあったのです。

しかしその結果はそれほど良いものではありませんでした。

どのグループもなぜかAI Botや拡張現実(AR・VR)といった当時の先端技術を使うことばかりにフォーカスしてしまい、具体的に”なんの課題”を解くのか?その点が曖昧であったため、10数組のグループがあるにもかかわらず、アウトプットは同じようなものに収束してしまったのです。2日後にはもはや思い出すこともできないようなありふれたソリューション・・・。デザインシンキングそのものは優れた問題解決のアプローチであることは間違いなく、またコンサルティング企業に勤める同僚たちも皆優秀です。

それにもかかわらず、なぜあのような水っぽいスープのような、なんともコクのない仕上がりのアウトプットばかりが生み出されてしまったのか・・・。そしてHealth Tech Hackathonがそのような結末を迎えないようにするためには何が必要なのか。

思い悩む小出の前に現れたのは1枚の紙でした。

企画として意識した点

fast DOCTOR VALUE 2.0

Go,Gemba・・・。そう。Go,Gemba。そうだ。そういう時はGo,Gembaだった・・・。

途方に暮れていた小出の前に現れたのはファストドクターのValueのポスターでした。

ファストドクターにはGo,Gembaというカルチャーがあります。これは何か施策をやる時に机上だけで考えるのではなく、実際に自分で現場に出て一次情報を見て聞いて嗅いで舐めて、全身で感じてこい、そこにこそ課題解決のヒントがあるはずだ、というカルチャーです。

なぜ前職でのワークショップがうまくいかなかったのか。その答えはまさしく、現場の声がそこにないからだったのではないか、とストンと腑に落ちるところがありました。

どんなに優れた技術があったとしても、誰のどのようなペインを解決するのか?という具体的なイメージがないままに解決策を生み出しても、作り手の想像の域を出ることはなく、独りよがりなものになりがちです。

必要なのはなかなか外からはうかがい知ることのできない病棟やクリニックの中で起きている生の景色と声。良いアウトプットのために、ハッカソンにどれだけ多くの鮮度の高い生の声を解像度高く持ち込めるか、それこそが成功の鍵のように思えるようになったのです。

生(現場の声にこだわる)

考え抜いた結果、逆に考えはシンプルな方向へと回帰していきました。

今回Health Tech Hackathonに参加されるエンジニアの皆様はプロフィールから全員が日本でもえりすぐりの技術力があることがわかっていたこともあり、小出の脳を通した二次情報をインプットとするよりも、可能な限り「生」の状態に近いインプットをそのまま提供し、”自由”に解釈してもらう、としたほうが、ソリューションの広がりがあるように思えました。

そのため、インプットとして大きく2つ準備することにしました。
1つ目はファストドクターで実際に勤務している医師を各チームに配置し、医療の生の声をそのまま伝えてもらうこと。ただし、参加チームの中にはすでに医師資格を持ったメンバーがいる場合もあったために、どの程度ファストドクターの医師の参画が必要であるかは各チームに事前にアンケート調査を行い、期待値をヒアリングしました。

2つ目として、ファストドクター社員と非常勤医師、そして小出の友人である医療者(医師や看護師)、6名に対して”医療の現場で見て感じたこと”をヒアリングし、生の声をつづったヒントカードです。

6名の医療者には、普段採用などで話すような格好つけた言葉が欲しいのではなく、ありのままの姿を話してもらいたい、ということを伝え、ヒアリング項目も可能な限り一人の医療者としての人格・価値観や職業倫理がどのように作られてきたのかの経緯を自然体で話してもらうことにしました。

なぜ医療者になったのか、普段どんな仕事の仕方をしているのか(していたのか)、本当はどう働きたいのか、医療の仕事をしていて楽しいと感じる時はどのような時なのか。といった質問を通して、実際に医療の現場で働く人たちがどのような人たちで、どのような仕事をしているのかの現実をそのままヒントカードに落とし込むことにしたのです。

ヒントカード

作ったヒントカードを社内のエンジニアに見てもらい、このインプットがあればハッカソンはできると思うか?と聞いたところ、程よい自由度があってとても良いインプットだ!という評価をもらい、自分のやっていたことの正しさに手応えを感じることができました

参加者評価は10点満点中約9点の高評価イベントを実現!!

そして緊張のハッカソン当日。小出の目には、6枚のヒントカードを見ながら、配置された医師と熱心に現場のペインを話し合う参加者たちの熱い姿が映りました。

 

 

日本を代表する有名企業の技術チームや、Health Tech Hackathonに参加するために夏休みを利用してカリフォルニアから来日してくれたエリート大学生グループもあり、多様なバックグラウンドと優れた技術力を備えたえりすぐりのエンジニアチームが一堂に会し、医療の現場のためになるソリューションを考え始めたのです。

それはまさに医療とエンジニアリングという異なる世界が融合を果たした瞬間でもありました。

そして2日後、ハッカソンのアウトプットとして、問診の自動化や書類作成の自動化ツールといったものから、認知症を初期段階で判定するといったものまで、医療現場の課題を参加者が広く解釈した自由度のあるプロダクトが次々と発表されたのです!

事後アンケートでも10点満点中約9点という非常に高い評価をいただいたことで、やっと安心することができました。

 

 

終わりに

大成功と言っても過言ではない(はず・・・)結果へと収束した第1回Health Tech Hackathon。非技術者である小出にとっては、そもそも生成AIという技術について初めて真面目に考える時間となりました。そしてそれ以上に、技術者にとってどのような問題設定やインプット情報が最も心地良く、その創造性を発揮することができるのか、コラボレーションのあり方を深く考えることができた貴重な時間となりました。この経験をなんとか日々の仕事の中でも活かしたい・・・。見ていてくれファストドクターのみんな・・・。

冒頭に記載したように、日本の医療リソースの不足はすでに現実的な問題として私たちの世代、私たちの子どもたちの世代に重くのしかかり始めています。

しかし、必要以上に悲観的になっても現状は変わりません。幸いにもChatGPTをはじめとする新たな技術や希望の光となり得るヒントは、広く世界を見渡せばすぐそばに存在しています。

楽観的に、一方で夢物語にならないように、現実的な解決策を泥臭く、医療者、そしてエンジニアの皆様と探していく場の中心として、今後Health Tech Hackathonが輝けるように取り組んでいきたいと思っています。